桐野夏生 残虐記

  自分は本当に無節操に本を読む。
     時々 自分は単なる文字の中毒患者に過ぎないのではと思うことがある。
     なにしろ枕元に本が何冊かないと落ち着かないのである。

     先日 図書館で展示コーナーでなにげに逢坂剛の三冊を手にしたときに
     作家ひとりでは面白くなかった時の保険にと目についた「残虐記」というタイトルにひかれて
     借りた1冊である。

     女の子が工員に誘拐されて1年以上真っ暗な部屋に監禁され、一緒に生活する話である。
     こんな事件が実際にあったような気がする。
    
     恐怖・嫌悪・慣れ・不思議な愛情・人間不信・真実・事実・もろもろの感情・成長・
     家族関係・社会とのかかわりなど少女の心の動きを中心に描かれる。
     
     人間のもつこころの不思議さ。
     
     解放されてから父母は離婚し、少女は母とともに転地して小説家となって
     センセーションを巻き起こす。

     最後は事件の時の検事と結婚するのだがそれでも真実はわからない。

     犯人と被害者が話さないから真実は見えない。
     たとえ犯人と被害者が真実として話したとしても真実は分からないのではないのだろうか。

     それほど人のこころは絶えずゆれているものなのだろう。

              自分も自分をつかめないでいる。自分ってどんな人? 単なる馬鹿か。