中村文則『逃亡者』を読む。

中村文則作品。中村作品を読むのは9作目だ。どれを読んでも独特の感覚というか難解というか。500頁の大作。ジャーナリストと日系ベトナム女性との恋を縦糸に遠藤周作の「沈黙」のような長崎のキリスト教徒たちや第2次大戦の南方諸島での敗戦の兵士たちが描かれる。宗教・戦争・人間という大きなテーマがリズムよく。

『逃亡者』

日本軍楽隊の幻のトランペットを手に入れたジャーナリスト山峰は付け狙われる。海外に逃げる。フィリピンで日系ベトナム人アインと恋に堕ちる。アインの祖先は長崎の切支丹で禁教によって迫害を受けたひとりでアインはいろいろ情報を集めて小説を描きたいとおもっていた。日本留学が叶い山峰と再会する。かって長崎の弾圧では孤児たちがたくさんでたが岩永マキは数百人の子供たちを養子にして日本の孤児院のもととなったという。情報のなかにフィリピンで敗戦まじかに鈴木という天才的トランペット奏者が逃げ惑うなかでトランペットを吹いて米英軍を奇跡的に破ったというトランペットが地中から見つかったという情報に出会い、彼の手紙の断片と楽譜も手に入れる。鈴木奏者の戦争は悲惨なものであった。トランペットを手に離さず日々敗戦濃厚ななかを彷徨う。山峰はデモ隊に間違われて押されて亡くなったアインをいつまでも想う。

(殉教で多くの信者が死んでいく中で神父にいう紳士の言葉が印象的だ。「おぬしが恐れているのは神ではない。おぬし達の組織じゃ」また戦争では多くの兵士が食うもののないなかで死んでいく中で中隊長は「武器を捨て、手を上げるぞ。」鈴木は納得できずにトランペットを高らかに鳴らす。当然轟音が・・・)

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