荻原浩『月の上の観覧車』を読む。

荻原浩作品。1956年生。埼玉県出身。比較的平易な文章の作品が多い。

この本は8編の短編小説が収められている。どれもいいが一番好きなのは「金魚」。

「月の上の観覧車」もいい。

『月の上の観覧車』

「トンネル鏡」は漁協勤めの父を3歳の時に亡くして母に育てられた私が東京に出る。

電車で帰るたびにトンネルに入ったときに鏡になる窓に映る自分の顔が・・・。

「金魚」は妻をなくしてうつ病に罹った男が会社に病気を隠して働いているのだが

ある時帰り道でお祭りに出会い小さな女の子から掬ったばかりの金魚を手渡されて

女の子がいなくなる。家に持ち帰って飼うことで生活に色もでてきたのだが・・。

上海租界の魔術師」は戦前上海で大魔術師と言われた祖父が父のもとに転がり込んだ。祖父の魔術を理解してたのは2番目の孫の私だけだった。

「レシピ」は定年退職をする夫の帰りを待ちながらレシピで過去をたどる。

「胡瓜の馬」は30年ぶりに同窓会に出席するために故郷に帰るのだが本当の思いは

さいころ遊んだ女の子が自殺した原因が知りたかった。妻はお見通しだった。

「チョコチップ・・・・」は家庭第一と願う夫が仕事に追われて家庭を顧みられない。

木材職人になって家族を大事にと思うのだが妻に愛想をつかされて離婚。年に一度の

娘と会う日に昔よく行った小さな公園でチョコチップをふたりで食べる。

「ゴミ屋敷モノクローム」はゴミ屋敷の苦情を担当した職員の思い。

「月の上の観覧車」は祖父の代からの観光業を継いだ男がバブル期は成功する。夫婦の間に子供ができたが愛情の甲斐なく13歳でなくなった。観覧車に乗ると

なぜか亡くなった人たちと出会えた。子・妻・母・父と。

(妻を亡くしたり離婚して環境が激変した男たちの切なさが描かれる)

☆☆☆

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